他の記憶術が勉強に役に立たない三つ目の理由は、
多くの人はトレーニングの途中で嫌になるからです。
まず第一に、連想自体が難しいため途中で嫌になります。
先ほどの東京タワーの例1個だけならまだしも、
試験で覚えなければいけない内容は膨大です。
連想がいつも都合よく作れるとは限りません。
例えば、“六本木ヒルズ”と“官僚制”を連想で結び付けるのは難しいですよね
(このような抽象的な名称をどう扱うかについても、瞬間記憶術ではあまり触れられていません)。
“新宿都庁”に“株仲間”という結び付けも苦慮してしまいそうです。
それでも、瞬間記憶術ではイメージ連想が重要なので、
それぞれに無理やりイメージを考えて結び付けるのです。
この方法の苦しさの一つに、六本木ヒルズや新宿都庁という名称が、
象徴的な意味合いを持っていないことにあります。
六本木ヒルズはただの固有名詞ですから、本来“官僚制”という
歴史的意味を持つ用語と結び付けるのは無理があります。
だから、“六本木ヒルズ”と“官僚制”を結び付けるイメージ連想を作るのにみな苦しむのです。
せいぜい東京タワーの例のように、語呂合わせで結び付けるしかありません。
しかし、そんな形で無理やり何百、何千個もやっていったら完全に頭が混乱してしまいます。
情報を頭の中で整理するのが勉強の基本なのにこれでは本末転倒ですね。
他には山手線の駅名(29個)を目次にして、何かをイメージ連想で
あてはめて覚えていく方法もよく使われますが、山手線の駅名の
一つ一つに意味を感じられる人はいないでしょう。
こうして無理やりなイメージ連想を何度も繰り返すうちに、
だいたいの人がイメージ連想を作ることが嫌になって投げ出してしまう・・・
というのが実情なのです。
第二に、瞬間記憶術の連想法では、目次に使うリスト自体を
いくつも持たないといけないので途中で嫌になります。
先ほどの例で1東京駅→2銀座→3東京タワー→4六本木ヒルズ
→5表参道→6明治神宮→7新宿都庁・・・・とありましたが、
このようなリストをいくつも自分で作り続けないといけない苦しさがあるのです。
なぜかと言うと、東京タワーから、いくつもの言葉を連想すると、
訳が分からなくなって頭が混乱してくるからです。
だって、東京タワーから王選手や水前寺清子やタワシやライオンなど
いろいろ出てきたら、頭の中がゴチャゴチャになってしまうでしょう。
だから、自分で目次リストを考え、それをいくつも作り続けないといけません。
ちなみに目次リストの個々の名称は抜けなく完璧に覚えておかなければアウトです。
例えば、山手線の駅が一つでも抜けたら、ある知識がストンと欠落してしまいますので。
第三に、習得に時間がかかるため途中で嫌になります。
記憶術を学習しようとする人の多くは受験生ですが、
記憶術を習得してから、次に勉強を開始しようとすると時間がなくなってしまう人が多いのです。
(時間を掛けたとしても結局は短期記憶の方法論なので、
本当の意味で試験勉強のための記憶術を修得したとは言えない、という問題は残るのですが・・・。)
要領の良い人は、時間がかかることに嫌気もさし、
途中で見切りをつけて瞬間記憶術の修得を諦めるものです。
習得に時間がかかる理由として、瞬間記憶術の方法論は、
そもそも大人にはあまり向かない方法だからです。
瞬間記憶術の連想イメージで覚える方法は、
映像やイメージを司る右側の脳(右脳)を主に使う方法です。
しかし、大人になると、左側の脳(左脳)が発達してきます。
ここは論理や計算を司る部分で、論理脳とも言われます。
左脳が優位な大人になってから右脳をフルに使う瞬間記憶術を
習得しようとするのは脳科学的に見ても難しい方法と言えます
(小学生ぐらいだとまだ右脳が優位なのである程度上達するかもしれませんが)。
実は、スクールや通信教育など、昔から大人向けの記憶術の講座は人気があり、
大変多くの人が受講しています。
いわゆる老舗の講座では、累計100万人近い受講者を集めているものもあります。
しかし、いつまで経っても私たちの周りにはそういった技術を習得できた人は現れません。
私は、勉強と記憶術トレーニングを分けて進める方法で、
習得できた人の話を聞いたことはありません。
確かに、世の中には天才としか思えない記憶力を持つ人がいるものです。
しかし、本人が名人芸を持っていることと、それを再現性のある
技術として普通の人に修得させられるかは全く別の話です。
ある記憶術の著者は、教材の中ではっきりと言っています。
「記憶術のトレーニングは途中で止めてしまう人が多いのです。
だから、何とか頑張って毎日続けてください」と。
先ほど、連想イメージの方法などを書きましたが、
この種のトレーニングを毎日行っても、
だんだん連想を考えること自体苦痛になり、
途中で止めてしまうのは無理もありません。
その時間に単語の一つでも二つでも覚えておけばよかった・・・
と思うのが心情でしょう。
大人には大人にあった論理を使う方法を用いるべきです。
よく“1日○分のトレーニングだけであなたも記憶の達人に!”
といった広告を目にするかもしれません。
トレーニングの目的は、流派によっては“頭をよくする”ことだと言います。
トレーニングをやっても成果が出ない場合は、
「できないのは(頭の悪い)自分のせいだ」となりますよね。
こうして、散々連想トレーニングや眼球を前後左右に動かす
トレーニングなどをさせられて、何だかよく分からないまま諦めてしまう人が多いのです。
再現性のあまり期待できない方法を一生懸命誰でも修得できますよ、
と煽り、長年授業料を取っている・・・
これが残念ながら過去30年の間変わらない記憶術業界の実態です。
以上が日本で今まで紹介されてきた記憶術の問題点です。
これらを総合して考えると、現在日本で紹介されている、
いわゆる瞬間記憶術は残念ながら試験勉強向けとは言えません。
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